「右利きなのに左手が腱鞘炎に」なぜ?――世界のクリエイターを救った魔法のデバイス

イラストを始めとするクリエイティブな作業において、クリエイターが抱えている悩みとはなんだろう。今これを読んでいる読者の中にも、仕事であれ趣味であれ何らかの形で創作活動に携わっている人がいるかもしれない。
自分のアイデアを形にしていく過程で障害となるものは一体何だろう。モチベーションの低下? アイデアの枯渇? 受け手のネガティブな反応?

実は、なかなか気づきにくいが最も深刻なものがある。肩や肘、手への負担だ。日常的な負荷が積もり積もって、何年後かには取り返しのつかない状態になってしまうこともある。

今回取材した株式会社BRAINMAGICの代表である神成大樹氏も、かつてのイラストレーター時代に腱鞘炎に悩まされていたクリエイターの1人だ。クリエイターの救世主となったプロダクト、「Orbital 2」には一体どのような魅力が詰まっているのだろうか。

ラスベガスで開催されたCES(家電見本市)で大人気――世界のクリエイターを感動させたOrbital 2とは?

BRAINMAGICが開発したクリエイター用左手デバイス「Orbital 2」(以下、O2)は、これまでキーボードのショートカットキーやUIで駆使して行っていた煩雑な動作を、非常にシンプルなジョイスティックとダイヤルのみで実現できる。ありそうでなかったこの製品は、アメリカ・ラスベガスで開催された世界最大の家電見本市「CES 2018」に出展した際も非常に高い評価を受けた。実際に体験したクリエイターからその場で購入を希望されるほどの人気っぷりだったそう。

実際のO2を触らせてもらった。シンプルさが追求されたデザインは非常に親しみやすい

「ショートカットキーを押すという動作は、極めて非直感的です。Ctrl+Zって覚えないと、『戻る/進む』って分からないじゃないですか。そこをレバーの形にすることによって、とても直感的に操作することが可能になります。あと、クリエイターの作業って連続性のある入力が多いんですね。例えば、拡大・縮小やCtrl+Zは、ショートカットキーでやると連打になります。絵を描く人ってタッチを重ねるので、重ねたタッチを一気に元に戻すために『戻る』を連打することになります。そうしたときに、こういうダイヤルデバイスがあればすごく作業がやりやすくなります。ただ、いっぱいダイヤルが必要なんですよね。それで生まれてきたのが、この『O2』という製品です」

代表の神成大樹氏

そうして生まれたO2は実際にどのような場面で役立つのだろうか。

「液晶タブレットを使っているユーザーは、キーボードをパソコンの画面に貼り付けているんです。液晶タブレットって非常に大きいので、膝の上か画面の上にしかキーボードが置けないんですが、意外にも画面に貼り付けるほうが多数派だということが実際にアンケートを行ってみて分かりました。しかしそうすると、貼ったキーボードを操作するためにずっと手を上げた状態になってしまいます。医者から見ても、肩や肘、手にとって非常にリスクがあるそうです」

O2はそんなクリエイターの悩みを一気に解消できる。

「注目して頂きたいのは、ユーザーインターフェースと手の運動なんです。O2を使うとカーソルを移動する動作がほとんどなくなる。10分の1以下どころじゃない。ツールを切り替えて描いて、を繰り返さなきゃいけなかったのが、描く動作だけに集中できるようになるので、結果として右手の負担も減るというわけです。 O2って非常に単純なジョイスティックとダイヤルの組み合わせで、今まで実現できなかったたくさんのパラメータ調整を行うというところにコアがあるので、ダイヤルがいっぱい並んでいる機器となら何でも置き換われます。サウンドクリエイターとか、設計図を書いているような人たちからも引き合いがある状況になっています」

もともとはクリエイターがイラストを描く際の負担を軽減するために開発された製品だったが、思わぬ副産物もあったそう。

「実はVR空間の中で絵を描いたりするときに、最適なんです。キーボードはVR空間にまだ持って行けないんですよね。ゴーグルを被っちゃうと手元が見えないので、本当のブラインドタッチ状態になってしまうんです。ですので、特にグラフィックツールのようなものを今後VRの中でやりたいねという話は必ず出てくるだろうと考えています。そういうときの最適解がこのO2というデバイスです。手の感覚だけでいろいろな機能を切り替えたり、複数のパラメータ調整を行なえるので画面に集中できるというところに開発のコンセプトがあります。結果として、偶然なんですけどVRに非常に適したデバイスになっています」

VRでの活用も期待されるO2。他の左手用デバイスとは異なり、O2はシンメトリー構造になっているため右手でも操作できるのが特徴だ。さらに、ガイドメニューが出るため、触りながら使い方を覚えられるという点でも高評価を受けた。操作に慣れればガイドをすべて隠すこともできるので、まるで魔法を使っているような感覚を味わえるそう。

クリエイターを支援する土壌――ビジョンを実現するためのユニークな制度

O2は、神成氏のイラストレーターとしての経験から誕生した。長いときには1日20時間も作業することもあるハードな仕事の中で、ペンを持たない左手まで腱鞘炎になってしまったという。右利きのクリエイターが左手で行う作業は実は非常に多いのだ。それらにキーボードでは対応できないという経験が、O2を開発するきっかけとなった。そのような代表自身の実体験があったからこそ、イラストレーターの方から「作ってくれてありがとう」と感激されるほどのプロダクトが生み出されたのだ。

クリエイターの神成氏が率いるBRAINMAGICでは、「Entertainment. It’s Everything.」をビジョンとして掲げ、「Creating Re-Creation(創造性の再構築)」というミッションを達成するため日々の業務に取り組んでいる。このミッションには、テクノロジーの力で日常の様々なシーンに潜むストレスを取り除き、最適化するソリューションを提供するという想いが込められているのだ。

さらに、これらのビジョンやミッションに直結する要素として、クリエイターを支援する土壌ができあがっている。

その一例が、BRAINMAGICのユニークな勤務制度だ。これは、業務の20%を自分の好きなものを作る時間に充てるというもの。クリエイターとしてレベルアップするためにインプットや考える時間の確保が重要という考えから設けた制度だ。

「実際にクリエイターとしてやっていく中で体験した問題を解決する。そこの視点を失いたくないなと。社内の人は皆、クリエイターであってほしいというところで、忙しい仕事をしていると、どうしても摩耗してきてしまうので、それをちょっとでも防ぎたいという思いです。社内の人間がクリエイティブじゃないのに、世の中を『Creating Re-Creation』できるのかという話もあって。 テクノロジーの力で、世界のクリエイティブを加速していきたいという思いがあって、将来人工知能がクリエイティブを創り出す時代がやってくる可能性があると思うんですけれども、そういう時代の中でも、『俺は作るぜ』、『自分は作り手だ』ということを選ぶ人たちを応援していきたい」

神成氏の隣に立つのはジェネラルマネージャーの甲斐頌久氏。右腕として代表を支える

神成氏がもつイラストレーター時代の経験から誕生した、画期的な最新型入力デバイスO2。徹底的にクリエイターに寄り添ったプロダクトが生み出される背景には、メンバーひとりひとりのクリエイティビティを大切にする企業風土があった。BRAINMAGICでは、世の中を『Creating Re-Creation』することをミッションに掲げ、クリエイターを救う魔法を生み出し続けている。

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