保険・自治体・マーケティングでの活用も……拡大するモビリティ市場で28歳社長が見据える、コネクテッドカーの可能性

電気自動車・自動運転・コネクテッドカー。近年、自動車にまつわるテクノロジーの発展は目覚ましく、私たちの「移動」は大きな変革期にある。コンビニやショッピングモールにもEVステーションが設置されはじめ、自動運転は運転支援システムという形で一部ではあるが、実際の自動車にも導入されつつある。

市場拡大が期待されるモビリティ事業の中でも、コネクテッドカーのサービス開発に注力しているのが株式会社スマートドライブだ。コネクテッドカーとは常時インターネットに接続されている自動車のことをいい、「自動車のIoT化」ともいわれている。

スマートドライブでは、自動車に取り付けた専用デバイスで走行経路や運転の危険度などの情報を収集・分析し、そのデータを活用した様々なプロダクトを提供している。個人向けには安全運転診断アプリ「DriveOn」のほか、損害保険大手のアクサ損害保険株式会社と業務提携を行い車両保険の顧客へデバイスを提供。また、法人向けの車両管理ツール「DriveOps」は運送会社やタクシー会社などの企業に利用されており、法人・個人を合わせた導入台数は数万台に上る。さらに、今年中にも毎月定額で車に乗れる新サービス「SmartDrive Cars」をリリースする予定だ。
まさに今事業を大きく拡大させている最中のスマートドライブ。今回は、同社の代表取締役・北川烈氏に話を伺った。

テクノロジーで「移動の最適化」を目指す

北川氏がスマートドライブを起業したのは大学院在学中。大学院では自動車や人、船などの移動体のデータ分析の研究を行っており、その知見をビジネスで世の中に活かしたいと考えたのがきっかけだったという。当時は電気自動車・自動運転・コネクテッドカーという車の移動に関する新たなテクノロジーが注目され始めたころだった。

「これからテクノロジーが『移動』を変化させていく中で、中心になるのはやはり自動車だと感じました。特にコネクテッドカーは電気自動車や自動運転よりも先に大きく伸びるだろうと思ったんです。他の2つと違って技術的な実現可能性が高く、今当社が行っているような形で外付けにすれば普及もさせやすい。何より『移動を最適化させたい』という自分自身のビジョンにも合致していました」

株式会社スマートドライブ代表取締役・北川烈氏

人々の移動体験をより効率的かつ安全で、エコなものへと変化させる。このビジョンはスマートドライブのプロダクトの根幹となっている。「DriveOn」、「DriveOps」に安全運転診断の機能が搭載されているのも、移動に変革を起こすためのアプローチのひとつだ。

「危険運転の診断というのは難しくて、荒い運転をしている人が意外と事故を起こさなかったり、逆にゆっくり走っている高齢者の方が危険だったりということもあります。当社ではデバイスが自動車にかかっている重力を6軸で毎秒測定することで急発進や急ブレーキの度合いを判定し、同時に道路の道幅や時間帯といった他の情報とも組み合わせることで精度の高い独自の運転診断アルゴリズムを作っています」

「DriveOps」のプラットフォーム画像

この診断結果は、個人向けの「DriveOn」ではユーザーの運転状況を可視化して安全運転を促し、法人向けの「DriveOps」ではドライバーの安全運転指導に役立っている。将来的には車両保険会社と連携し安全運転をするほど保険料が安くなるような仕組みを作っていく予定だ。

インターネットにつながる自動車。「コネクテッドカー」で、世界はどう変わる?

さらに、スマートドライブのデバイスは、運転の安全度以外にも車両の現在位置や走行経路など、様々な情報を取得している。北川氏は「自動車が常時インターネットとつながって、その動きがリアルタイムにデータ化されるようになることで、大きな変革が起こる」と語る。

画像中央が3種類あるデバイスのうちのひとつ。デバイスは、シガーソケットに挿入して使用する

「自動車の走行経路を見れば、個人を特定しなくても行動分析ができる。これはひとつ面白いところだと思います。例えばスーパーAに最近あまり人が来ていないとなったときに、ユーザーの移動履歴を見てみると、みんなスーパーBに行くようになったことがわかる。来なくなった人たちがどこへ行ったのかというのは本来、手に入れにくい情報ですが、走行経路を見ればデータとして取得できます。マーケティングの方面で大きく活用できると思いますね」

また、同社では自治体から依頼を受け、特定の道路における危険運転のデータを提供することもあるという。危険運転が多数発生しているという明確なデータがあれば、交通事故が起こる前に道路工事の可否を決定でき、事故を未然に防ぐことができる。

「今後、自動運転が普及して、人が運転する自動車と自動運転の自動車が同時に走っているような状況になった時も、当社のデータが役立つと考えています。A地点からB地点まで適切なルートを通って移動させる、という部分は人の運転する自動車でも自動運転でも同じですから、そうした状況下で通るべきルートを指し示す司令塔のようなシステムを作ることもできると思います」

ここに挙がっている例は一部に過ぎない。現在、様々な物品でIoT事業は盛んだが、自動車という私たちの生活に密着したものがインターネットとつながることは、日常を大きく変化させる可能性を持っている。

コネクテッドカーのサブスクリプション化、プラットフォーム公開

今年、移動データの新たな活用法としてスマートドライブが打ち出すのが、個人向けのサービス「SmartDrive Cars」だ。「SmartDrive Cars」は従来のサービスと大きく異なり、デバイスを設置した車両ごと提供。車両代金はもちろん、自動車税や整備費・デバイスの使用料などを含め月3万円程度から車に乗ることができ、さらにユーザーは運転状況に応じた様々な特典を受けられるサービスも検討している。

「このサービスでは、無事故や安全運転など運転の状況によって利用料が安くなり、ポイントももらえるようにします。自動車の利用をサブスプリクション化するのと同時に、安全運転にインセンティブをつけるサービスでもあります。『DriveOn』や『DriveOps』でも多くの人々の移動を最適化するためのサービスを作ってきましたが、『SmartDrive Cars』では現在、自動車を持っていない人にまでターゲットを拡大します」

単なる自動車の月額制利用ではなく、コネクテッドカーから得られるデータがあるからこそ、コストを抑えたいユーザーのニーズにも応えることができ、安全運転の促進をも同時に実現できるのだ。
さらにスマートドライブでは現在、同社のデータプラットフォームを利用してアプリケーションを作成するパートナー企業を募集している。

「今当社で取得しているデータは本当に幅広く活用することができます。蓄積したデータや分析の技術をオープンに提供して、色々な企業が利用できるようにした方がよいだろうと考えました。自動車の位置情報を利用した見守りサービスであるとか、危険運転の情報を活用した保険商材サービスを作りたい企業さんであるとか、自動車などの移動体から取れるセンザーデータを活用したサービスを開発したい企業さんに使っていただくことを想定しています」

また、サードパーティのデバイスをスマートドライブのプラットフォームに連携する構想もあるという。スマートドライブにとって、今年は企業規模を大きく広げる1年となる。従来のプロダクトでデータプラットフォームの性能を高めてきた同社が、より本格的に「移動の最適化」の実現へと乗り出す形だ。

「移動」の最先端で、未来を作れるエンジニア

スマートドライブでは現在、同社にコミットする新たなエンジニアを募集している。「移動の最適化」を目指すにあたって、同社がエンジニアに求めていることを伺った。

「移動の進化という意味でいくと、今後色々な事業展開が考えられます。そのための基盤となるデータプラットフォームの性能をもっと高めるために、やはりデータ処理の技術が重要ですね。ハードウェアを扱った経験がなくても、ユーザーから送られてくるデータを適切に処理する、という業務の根底にあるものはWeb系とあまり変わりません。むしろWeb系で培った技術を手触りのある、リアルな世界の中で活かしたいと思う人に来てもらいたいですね」

「当社のエンジニアは検索エンジンのデータベースを扱っていたとか、スマートフォンゲームで何千・何万というユーザーの情報を捌いていたとか、大規模データを扱っていた実績のある人が多いですね。それから、走行経路や事故、危険運転の情報は非常にセンシティブなものなので、セキュリティには常に意識をしています。2017年3月にはISMS認証、同年7月にはプライバシーマークを取得しました」

今まさに発展の渦中にあるスマートドライブ。インターネットとつながった自動車は、様々な方面から私たちの生活に影響を与え、「移動」そのものを大きく変えていくはずだ。
「未来を作れるエンジニアを探している」――北川氏の言葉は、上辺だけのものではない。移動の最先端を行く同社は、まさに未来を作る企業だ。コネクテッドカーのもつ広大な可能性、それを技術で実現するチャンスが、スマートドライブにはある。

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